オールドタンクシンドロームとは?

長期間水槽を維持していると必ずぶち当たる壁とも言っていい【オールドタンクシンドローム】。これのせいで栄養塩が下がらなくなってサンゴ飼育を諦めた方もいるんじゃないでしょうか?
今回はオールドタンクシンドロームについて、その発生原因から対策方法までのお話です。
オールドタンクシンドロームとは?
前回の嫌気層の話で触れましたがおさらいとして、オールドタンクシンドロームとは長期間水槽を維持していると発生する現象。
これになると水換えをしても栄養塩(硝酸塩やリン酸塩)が下がらなくなってしまう状態です。
硝酸塩はまだ水換え直後はある程度下がってくれるのですが、数日ですぐに戻ってしまいます。
リン酸塩にいたっては水換え直後でも値に全く変化が出ないレベルで減りません…メンテナンスする側としては悩ましい状況です…
どうして栄養塩が下がらなくなるのか?
これについて、「岩や砂に栄養塩が染みついて取れなくなる」といった話を聞いたことがないでしょうか?わかりやすく言うとそれで合っています。
もうちょっと具体的に言うと【岩や砂に含まれる炭酸カルシウムと硝酸塩・リン酸塩に結合している】状態です。
炭酸カルシウムCaCO₃ + 硝酸塩NO₃ = 硝酸カルシウムCaNO₃
炭酸カルシウムCaCO₃ + リン酸塩PO₄ = リン酸カルシウムCaPO₄
※どちらも細かな化学式は省略しました。
砂や岩がこのような状態になってしまいます。
そうして染みついた成分が溶け出すことでいつまでたっても栄養塩が下がらなくなるんですね。
なぜ栄養塩が溶け出してしまうのか?
ではなぜその栄養塩が溶け出してしまうのか??
化学に詳しい方からは指摘されるのですが、カルシウムと結合した状態のリン酸カルシウムは『不溶性=水に溶けない』ので、普通は溶け出したりしません。
※硝酸カルシウムは水溶性のようです。
これが溶け出す原因が嫌気層で活動している嫌気性バクテリアのせいなんです。
嫌気性バクテリアはNO₃やPO₄を還元する能力がありますが、これをリン酸カルシウムに対しても行えるんです。するとカルシウムとリン酸塩に分解され、この2つが水槽内に放出されるんです。
カルシウムが放出されるのは許せますが、リン酸塩が放出されるのは許されざる事態…
このように嫌気性バクテリアの活動のせいでリン酸塩がじわじわと分解されることでいつまでたっても数値が下がらなくなるわけです。リン酸塩だけでなく硝酸塩も結果として水に放出はされてるのでこちらの数値も上がっていきます。。。
放出されたリン酸塩も嫌気層で還元されるのでは??
「じゃあ放出されたリン酸塩をまた嫌気層が還元してくれればいいじゃない」と考えがちですが、どうもそう上手くはいかないんですね…
ちょっと”イオン”の説明も必要な問題に…
難しくなるので省略してるんですが、リン酸カルシウムを分解して生まれるのは正確にはリン酸塩PO₄ではありません、リン酸イオンPO₄³⁻なんです…。
”イオン”って概念が筆者も苦手で理解しにくいものなんですが…筆者なりにわかりやすく説明すると
『イオンは合成素材』です。PO₄の右上に”⁺”や”⁻”がついてますが、なんとなく付いてる訳じゃなくてちゃんと意味がありまして…とりあえず右上に”⁺”や”⁻”がついているものはイオンです。記号と一緒に数字が付いてますが、これもちゃんと意味があります。
そしてリン酸塩などは『完成品』です。これは”⁺イオン”と”⁻イオン”がくっつくことで完成品となります。
例えばリン酸イオンPO₄³⁻と三価鉄Fe³⁺は”⁺”や”⁻”なのでくっつくことが可能で、これでリン酸鉄FePO₄が完成します。完成品には⁺や⁻は付きません。
(※鉄でリン酸塩を減らせるのはこの結合のおかげなんですね。リン酸鉄も不溶性なのでくっついてしまえば本来なら水中にリン酸塩が戻ることはないんですが…)
そして”⁺”と”⁻”の数(=価数)は一致しないとくっつくことが出来ません。リン酸イオンと三価鉄は価数が”³⁻”と”³⁺”で一致してるのですんなりくっつきました。
そうすると、「リン酸イオンPO₄³⁻と二価鉄Fe²⁺はくっつくことができないのか?」と考えてしまうのですが、これについては解決方法があるようでして。リン酸塩を2つ、二価鉄を3つ用意すると…
リン酸イオン2(PO₄³⁻) + 二価鉄3(Fe²⁺)
→PO₄³⁻ + PO₄³⁻ + Fe²⁺ + Fe²⁺ + Fe²⁺ = 2FePO₄
このように⁻イオンが6、⁺イオンも6になって結合は可能、その結果リン酸鉄FePO₄が2つ完成するようです。
※化学を専攻したことがない筆者が独学で調べた結果なので、間違ってるかも…その時はゴメンナサイ
少々難しい話をしましたが、リン酸塩とリン酸イオンは違うものでして、リン酸カルシウムを分解して生み出されたリン酸イオンは嫌気性バクテリアでは還元できません。
このリン酸イオンが再びリン酸塩として完成品にならないと嫌気性バクテリアも何もできず、このリン酸イオンは水中で結合してリン酸塩になるので水中のリン酸塩濃度は結局上昇を免れないという感じです。
オールドタンクシンドロームを回避するには?
①砂や岩を取り換えてしまう
原因が『砂や岩に結合したリン酸塩が嫌気層の還元で溶け出している』ということなら、その砂や岩を取り換えてしまえばひとまずこの問題は解決します。
実際筆者も『海水魚水槽→サンゴも飼える水槽にしたい!』と要望を貰った場合は、一度砂や岩を(場合によっては濾材も)全交換することを勧めます。それをせずにサンゴ飼育に移行するのはメチャクチャ難しいので…
ただ砂や岩を交換するというのは創り上げた水槽環境を無に還す、リセットと同じなのでかなりリスクはある行為ですが…
②嫌気層を作らない
『嫌気層の還元で溶け出す』ならば、嫌気層を作らなければオールドタンクシンドロームは起きないと言えます。
そのためには砂を薄く敷く、2cm以下がいいと言われます。またライブロックも枝状ライブロックを使うなどライブロック内に嫌気領域が発生しないようなものを選ぶといいでしょう。
「でも嫌気層を活用して栄養塩を減らしたい…」という方は、濾材で嫌気層を維持するといいでしょう!
その際は素材にリン酸塩などが結合するサンゴ砂やライブロックを使わず、セラミック素材などを使うようにしてください。

オールドタンクシンドロームの仕組みを利用する
オールドタンクシンドロームの原因を知ることで、その対策もわかりました。
そしてもう一つ、この情報を利用すればリーフタンクの維持のヒントが見えてきます。
①定期的な栄養塩の補充方法として
LPSでは栄養塩がゼロだとサンゴが弱ったり色落ちの原因になります。
しかし敢えてオールドタンクシンドロームの状態を放置しておけば定期的なリン酸塩の補充になるという考え方も可能です。
もちろん、オールドタンクシンドローム状態で発生するリン酸塩の量は結構なものなのでどのぐらいの程度にするかの匙加減はけっこう難しいですが…
②カルシウムや炭酸塩の供給源として
栄養塩だけでなく、カルシウムCaやKHの補充にもなります。
リン酸カルシウムを分解するときにリン酸イオンの話をしましたが、この時にカルシウムイオンも分離されるんですね。さらに嫌気層の活動では炭酸イオンHCO₃⁻も放出されています。
砂や岩をカルシウムリアクターのように活用できるのも、嫌気層の活動が活発になった状態もメリットになり得ます。
③砂・岩を吸着剤としてとらえる
オールドタンクシンドロームの対策として砂・岩の交換を挙げましたが、これはある意味では砂・岩すべてが栄養塩の吸着剤と捉えることもできます。
リセットにはリスクはありますが、慎重に作業すれば丈夫な生体は全く問題ありません。
そして何年も同じ水景に飽きてしまう方、長期間楽しむのにモチベーションアップを図りたい方には
むしろ始めから半年~1年単位で全入れ替えで水景をリニューアルすると決めてしまえば、そもそもオールドタンクシンドロームを気にする必要も無くなってきます。
このように捉え方次第ではオールドタンクシンドロームを利用したりモチベーションアップの機会と考えることもできるでしょう。
【まとめ】
オールドタンクシンドローム:長期維持によって水換えしても栄養塩が下がらなくなる現象
発生原因:嫌気層のバクテリア活動によって硝酸塩やリン酸塩が溶け出す
対策:砂や岩を交換する、嫌気層を作らないようにする
これがオールドタンクシンドロームでした。間でイオンの話を挟んだので難しい話になってしまいましたが…
仕組みと原因がわかれば予防することも対策することも可能です。
長期的に水槽を楽しむためにこの問題とどう向き合っていくか考えることも重要な話ですね。

