レッドフィールド比について~海を参考にしたNP比

海の成分比率について提唱されるレッドフィールド比。海を再現することが水槽の最高到達点だと思うので、このレッドフィールド比について知ることは大きな学びになるだろう!これについてアクアリウムとの共通点を探し水槽管理に活かしたいと思い、レッドフィールド比についてちょっと深掘りした内容を書いてみたいと思います。
こちらの記事は筆者のアウトプットの場として使わせていただくので、興味のある方は片手間に読んでみてくださいませ。
※参考サイトは最後に紹介させていただきます。
レッドフィールド比とは?
海水中の炭素C窒素NリンPの比率について『C:N:P=106:16:1』の法則について述べたのがレッドフィールド比です。ここまでは過去の記事の中で少し触れました。
このレッドフィールド比ですが、『海水の成分を分析した』というよりは『海水中の生物体;植物プランクトンなど』に含まれる元素の比率というのが正しいようです。表層海水を濾過し、そのフィルターに残った粒子の中の元素比率がコレになる、という話。
しかし、深海の無機栄養塩(C,N,Pなどのこと)の比率も106:16:1とほぼ一致することが判明。さらに世界の海水のNO₃:PO₄の比率;N/P比が平均して16:1になるということでレッドフィールド比≒海水の成分比率と考えても大きく相違はないと言えるようです。
なお「深海の比率が106:16:1だとしてもそれが世界の海水の平均値とは言えないんじゃないか?」と思いましたが、そもそも海の中で深海の割合は98%(200mより深い海の割合)。3000m以下の海でも70%以上を占めているそうなので、深海の比率が正解中の海の平均値と言っても過言ではないような気がします。我々が関わる近場の海域の方が少数派なんですね。
レッドフィールド比が深海の比率と一致する理由
レッドフィールド比は主に植物プランクトンに含まれるC:N:P=106:16:1という比率でした。それが深海のCNP比と一致するのはなぜか?これは偶然ではなく必然的なものだそうで。
植物プランクトンが死ぬと海底に沈み堆積します(これがデトリタスになる)。そして分解が進んでいくとプランクトン内の元素が海底で放出されていくため、深海の比率も植物プランクトンの元素比率と一致するということです。
植物プランクトンが光合成でCNPを消費する
植物プランクトン内の元素比率がC:N:P=106:16:1になるのは光合成でこれらの元素を消費するためこの比率になるようです。
ちなみに光合成でこれらの元素をエネルギーに変えるのに必要な酸素元素の数は276だそうです。
レッドフィールド比を前提とした二酸化炭素消費(光合成)の反応式
(CH₂O)₁₀₆(NH₃)₁₆H₃PO₄+138O₂=106CO₂+16HNO₃+H₃PO₄+122H₂O
C:N:P:O=106:16:1:-276
バクテリアはけっこう酸素を使うと効きますが、植物プランクトンの光合成でも酸素を沢山必要とするのでしょう。酸素元素276個がどれほどのものかはわかりませんが…
あまり意識して無いですが溶存酸素量もやはり重要なファクターと感じます。
拡張レッドフィールド比~FeやSiを加えた比率
CNPだけ話してましたが、海中に溶け込んでいる成分は非常に多い。そしてCNPが光合成で消費されるということでしたが、光合成には他にも必要な成分がある。
そこでレッドフィールド比に鉄Feとケイ素Siを加えた『拡張レッドフィールド比』というものも提唱されている。それによると、
鉄を加えたC:N:P:Fe=106:16:1:0.1~0.001
ケイ素を加えたC:Si:N:P=106:15:16:1
鉄とケイ素はこのような比率が成り立つとのこと。なお、鉄Feの比率が0.1~0.001とかなり幅があるのは、海水を採取した容器の鉄分が溶出した可能性があるとかで正確に測ることができなかったとか…
とはいえ微量元素であるFeの消費量は少ないことが窺える。水槽内でも少しは必要だが、多すぎるとよくないということは理解できます。
サンゴの褐虫藻の消費率は?
これらは植物プランクトンの光合成における各成分の消費率だ。となれば、サンゴと共生している褐虫藻の消費率もこれと一致するのか?
ここについて調べてみたところ、サンゴの褐虫藻における消費率も106:16:1とおおよそ一致していると考えてもよさそうだ。
なので水槽内においてもプランクトンやサンゴの光合成ではこの比率で消費が進んでいくと考えていいだろう。
炭素Cにあたる二酸化炭素CO₂や炭酸塩(炭酸イオン)CO₃、窒素NにあたるNO₃、リンPにあたるPO₄も106:16:1の比率で消費されていく、と仮定できそうだ。
CNPの消費が止まる:窒素制限とリン制限
このレッドフィールド比に基づいてCNPが消費されていくとすると、「どれかがゼロになったらどうなるのか?」という疑問が湧くだろう。その場合は光合成(基礎生産)が停止するようです。
例えば海水中に
- CO₂=2,000
- NO₃=12
- PO₄=0.9
存在するときに106:16:1の消費率で光合成が進んだとする。すると
- CO₂=-79.5
- NO₃=-12
- PO₄=-0.75
消費された時点でNO₃はゼロになる。すると光合成に必要な窒素Nが足りなくなり光合成がストップする。これを『窒素制限』と言う。もしリンがゼロになった時は『リン制限』と言うそうだ。
つまり光合成に必要な成分がどれか一つでも欠けてしまうと光合成が出来なくなってしまう。
RedSeaの添加剤『NO₃PO₄X』を使って硝酸塩NO₃がゼロになってしまいリン酸塩PO₄が下がらなくなった、という経験はないだろうか?これも窒素制限によってPO₄の消費が無くなってしまったのが理由である。
水槽のN/P比100:1はホントに合っているのか?
ここまでレッドフィールド比と植物プランクトン(≒褐虫藻)の光合成の関係を見ていると、サンゴ水槽で推奨されている【NO₃:PO₄=100:1】の黄金比について、疑問が残る結果となってしまう。
ただコチラについては筆者も適切な比率だとは思っているし、実際それで調子が良かった例は何度か見ている。そして海と水槽ではそもそも環境が全く違うので、必ずしもレッドフィールド比が水槽の理想値になるわけではない、と結論付けてはいました。
しかし100:1と16:1では大きな開きがある…このモヤモヤを解決する方法はないのか…。
そんな中、京都大学の研究発表の中に興味深いものがありました。(最後にリンク紹介してます)
それは【貧栄養環境と富栄養環境では植物プランクトンが必要とするN/P比が変化する】というもの。
これは植物プランクトンの増殖・成長に必要なNPの相対要求量ということで厳密には消費量の話とは違うかもしれません。
そして貧栄養環境/富栄養環境というのがどのぐらいの栄養塩量なのか、そしてその時のN/P比がいくらなのか、についての具体的な数字は見つけられませんでした…
しかし貧栄養環境ほどN/P比のNの比率が高くなるという研究のようでした。
↑で深海のN/P比が16:1と話しましたが、実際海洋深層水の栄養塩は少し高めだそうです。その高めの栄養塩環境で16:1なのであれば、水槽内はより貧栄養環境と言えるのではないだろうか?(水槽のPO₄=0.02~0.04ppm、NO₃をその100倍ppmが理想値と考えた場合)
そうなれば100:1の黄金比についてもかなり信憑性が増してくると感じている。
【まとめ…というより総評】
以上、レッドフィールド比について調べてみたことのアウトプットでした。
レッドフィールド比のN:P=16:1の部分について、水槽の100:1の比率との違いの理由を知りたかったのが今回の記事作成の理由でした。
結果として確たる根拠は見つけられませんでしたが、100:1が正解なのもあり得るな~という着地点にはなったと思いました。
レッドフィールド比、海の成分比率はNとPだけで見るんじゃなく他のあらゆる成分との比率が関わってくると思うし、海と言っても場所によって様々なのでそもそもこの比率が水槽にそのまま当てはめられるはずがない、と言えばそうなのですが…
より海に近い環境再現を目指すマリンアクアリウムにおいてレッドフィールド比は知っておくべき内容だとは思います!
ちなみにこの夏に愛媛県愛南町のとある場所の水質検査をしてみたところ(RedSea試薬を使用)
- 塩分濃度:33~34‰
- 水温:26~27℃
- NO₃:0.00
- PO₄:0.04~0.08
- pH:7.6~8.0
- KH:7.0~7.5
- Mg:1350
- Ca:405
※表層水。採取場所は近くにSPSサンゴが点在している地点。近くに民家は無く生活排水流入は無し。
このような結果でした。一般的な試薬では研究機関のレベルとは比べ物にならないのでレッドフィールド比のような数値は叩き出せませんでしたね笑
参考サイト紹介
●北海道大学水産学部『基礎生産と有機物分解におけるC、N、P、Oの変動』
https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=255
●北海道大学水産学部『有機物の組成』
https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=146
●京都大学理学研究科・生態学研究センター『植物プランクトンの増殖に必要な窒素とリン、どちらがより重要か?-相対的要求量と環境中の栄養塩の絶対量の関係を明らかに―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-08-10-4
